「退職したいけれど保育園から引き止められてしまい、なかなか辞めることができない……。」
そんな悩みを抱えている保育士さんは、決して少なくありません。
転職先から内定をもらっている場合や、体調不良・家族の介護などで早めに仕事を辞めたい場合など、退職のめどが立たないようでは困ってしまいますよね。
今回はそんな保育士さんのために、退職を引き止められてしまう理由から、引き止めを避けるためのコツ、そして実際に引き止めにあった場合の具体的な対処方法まで、詳しく紹介していきます。
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辞めさせてもらえない?!退職の「引き止め」とは

退職の引き止めとは、労働者が退職の意思を示しているのに対し、事業主や上席がなんとか退職を思いとどまらせようとすること。
引き止めという言葉のイメージからは、退職を考え直してくれるように「説得する」という印象があり、実際保育士さんの将来を思って「思いとどまったほうがよい」と引き止めるケースもあります。
いっぽうで「急に辞められては迷惑!後任が見つかるまで退職は認められない!」と退職を認めてもらえないケースや、「自分勝手だ」「子どもがかわいそう」というような言葉で退職を責めることで退職を諦めさせようとするケース、なかには退職届を受理してもらえないケースもあるため注意が必要です。
保育園が退職を引き止めるのはなぜ?
まず、そもそもなぜ保育園は「辞めたい」という保育士さんを引き止めるのでしょうか。
もちろん、これまで頑張ってくれた保育士さんに対して「もっと活躍し続けてほしい」という期待もあることでしょう。
しかし、そこには園の運営上の理由がからんでいるケースも多くあります。
「保育士不足」が社会的な課題となっているいま、配置基準ギリギリの職員数で保育を行っている園も少なくありません。
職員数に余裕を持った運営をしていれば、急な保育士さんの退職にも対応できますが、そうでない場合には、一人の保育士さんの退職が園の運営を左右するケースもあるのです。
また、新たに保育士さんを採用する場合でも、退職する保育士さんと同等のスキルを備えた人材がなかなか見つからなかったり、教育や指導が十分にできるだけの余裕がなかったり……。
そのような「辞められると困る!」という園側の事情も、退職引き止めの大きな要因となっているといえるでしょう。
引き止め=辞められないわけではない

では職場で引き止めにあった場合、保育士さんは退職することができないのでしょうか?
結論から言えば、職場から引き止められても、労働者が退職することは可能です。
それは、法律上、労働者の辞職(退職)は原則として自由とされているため。
ただし民法上では次のように定められているため、基本的にはそのルールに則って退職の手続きを進める必要があります。
期間に定めのない雇用契約の場合
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
(民法627条1項)
雇用期間が定められていない契約の場合には原則、退職の2週間前までに退職届を提出することで、退職理由にかかわらず退職することができます。
期間に定めのない雇用契約の場合
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
(民法628条)
雇用期間に一定の定めがある契約の場合、労働者と使用者(事業主)双方の合意がなければ、原則として契約期間の途中での退職はできません。
ただし、なんらかの「やむを得ない事由」がある場合には契約期間の途中でも退職をすることが可能です。
なお、退職については職場ごとに就業規則で独自のルールを設けているケースも多くありますが、一般的には就労規則に定められた内容よりも、民法が優先されます。
「退職引き止め=辞められない」と諦めず、対応を検討することが大切だよ!
引き止めを避けるためにできること

「法律上、退職を引き止められても辞めることができる」とはいえ、できることならばトラブルなく円満に退職したいものですよね。
では、引き止めを避けるためにはどうしたらよいのでしょうか。
退職時期・退職を切り出すタイミングに注意する
引き止めを避けるには、退職で園全体にかかる負担をなるべく軽減することがポイントとなります。
そのためにはまず、退職の時期・退職意思を伝えるタイミングを検討することが重要です。
たとえば、保育士さんの場合には以下の点に注意することで、引き止められるリスクを低減できるでしょう。
やむを得ず年度途中に退職しなくてはならなくなった場合でも、できるだけ早めに退職意思を伝えることを心がけよう!

退職理由をよく考える
引き止めの要因のひとつには、退職の理由に説得力が欠けていることも挙げられます。
したがって、相手を納得させられるような退職理由を伝えることも引き止めを防ぐ重要なポイントとなります。
たとえば、業務量の多さが苦痛で退職を決意した場合、「仕事が多くつらいため」と伝えるだけでは「業務量を調整するから考え直してほしい」「そんなことではどの園に行っても通用しない、もう少し頑張ってみては?」などと引き止められる可能性が高いでしょう。
心身に不調があらわれているのであればそのことを正直に伝えたり、転職の場合ならば転職先でやりたいことを伝えたりすることで、より説得力のある退職理由となるはずです。
場合によってはホンネとタテマエを使い分ける必要も……
より条件のよい園へ転職する場合など、「自己都合」で退職するのであれば、引き止められにくい“建前上の退職理由”を伝えるのもひとつの方法でしょう。
【例】
本当は給与への不満が退職理由だが、職場へは「ほかにやりたい仕事があるため」と伝える
一般的に、次のような退職理由の場合には、引き止められる可能性が高くなります。
退職意思が固いのであれば、より当たり障りのない理由を用意しておくのがベターだよ。
以下のような退職理由は比較的当たり障りがなく、かつ園側も納得しやすい内容といえるでしょう。

追加質問に対する準備を
退職理由をきちんと伝えても、すぐに納得してくれるケースはまれ。実際には「退職してどうするのか」など、いろいろと質問されることがほとんどでしょう。
返答につまってしまったり、話の内容に矛盾が生じたりすると、引き止めのきっかけにもなりかねません。
あらかじめ質問される可能性のある項目をリストアップし、スムーズに答えられるよう準備しておくと安心です。
伝えたくなければ「具体的な事業所名は控えさせてください」と言ってもいいし、「今後のことは、まだ検討中です」などと不透明にしておいてもOKだよ。
事業所名などは公表しなくても、「転職先が決まっている」ということは伝える必要があるかもしれないわね。
引き止められた場合のケース別対処法
退職理由や退職する時期などに十分配慮しても、引き止められてしまう可能性はあります。
ここからは、退職を引き止められた場合、具体的にどのように対処したらよいのか、ケース別に紹介します。
「お給料をアップするから残ってほしい」
給与面での不満が退職理由となる場合はもちろん、それ以外の退職理由でも引き止めの材料として「給与アップ」を打診されるケースは多々あります。
「収入がよくなるのなら……」と提案を受け入れてしまいがちですが、忘れてはならないのがかならずしも「給与アップ」の約束が守られるとは限らないということ。
とくに口約束の場合には、ごくわずかな昇給で済まされたり、「ほかの職員との平等性もあって……」などとごまかされ、結局給与アップが実現されなかったりする可能性もあります。
「いつから」「いくら」昇給してくれるのか、書面で労働条件を提示してくれるのかなど、具体的な提案がない場合には、退職意思が変わらないことをハッキリと伝えましょう。
退職は給与のことだけではないことなどを伝え、退職意思が変わらないことを伝えましょう。
「働きやすくなる方法を検討するから辞めないでほしい」
「業務量を減らせるように調整するから」「残業を減らすから」といった提案によって、退職を引き止められるケースも少なくありません。
「体力的に続けることが難しくなって……」といった退職理由の場合にも、似たような引き止めがされる可能性があるでしょう。
しかし、これまでずっと改善されてこなかった問題が、一朝一夕で改善される可能性は低いもの。
園側の提案に納得できないのであれば、辞める意思が変わらないことを伝えましょう。
「人員配置を見直すから考え直してほしい」

人間関係が理由で退職する場合には、ストレスのもととなっている職員となるべくかかわらずに済むような配置の見直し、あるいは近隣の系列園への異動といった提案を受けることもあるでしょう。
もちろん、その配置転換によって働き続けることができる可能性があるのであれば、残ることもひとつの方法です。
しかし、配置転換を即座に行うことが難しい場合には、一定期間ストレスにさらされ続けることは覚悟しなくてはなりませんし、同じ園のなかでの配置転換であれば、頻度はともあれ、合わない職員と毎日かかわらなくてはいけない状況は変わりません。
また、給与アップの引き止め同様、かならずしもその約束が果たされるとはかぎりません。
よく考えたうえでの決断であることを伝え、きっぱりと引き止めを断りましょう。
「後任の保育士さんが見つかるまで待ってほしい」
後任者の確保は、大きな引き止め要因のひとつ。
退職を申し出た際に、「後任者の採用ができるまでは残ってほしい」と引き止められる可能性は高いでしょう。
「なるべく迷惑をかけずに退職したい」という気持ちから、了承してしまいがちではありますが、「後任者が見つかるまで」という条件交渉を、そのまま受けてしまうことには大きなリスクがあります。
交渉次第ではありますが、引き止めに応じる場合でも「〇月末まで」「最長でも年度末まで」など、条件をつけておくことが大切です。
退職後に運営に必要な職員を確保できないのは、あくまでも園の都合。
責任感や情から、安易に引き止めに応じてしまわないよう要注意よ!
「あなたは園にとっても子ども達にとっても必要なの!」
「子ども達は先生のことをとても慕っているからもう少し頑張ってみないか」
「先生はこの園にとって中枢となる存在だから……」
「園長として先生のこれからの活躍に期待しており、キャリアアップも検討していた」など、保育士さんの感情に訴えかけ、なんとか退職を思いとどまらせようとすることもあります。
自分が大切な存在であることを伝えられて、イヤな気持ちになる人はいないもの。
「そこまで言ってくれるなら……」と引き止め受容のハードルが下がってしまうケースも多いでしょう。
しかし、能力や必要性を認められているからといって、退職を決意するに至った状況が変わるものではありません。
なぜ退職したいのか、退職で実現したいことはなにかを冷静に考え、残留の意思がないのであればきちんとその旨を伝えましょう。
「中途半端に辞めるなんて無責任!」「子ども達がかわいそう」
嬉しい言葉をかけて引き止めるのとは反対に、なかには退職することを責め立てることで退職を思いとどまらせようとするケースもあります。
「ほかの保育士さんに迷惑がかかる」「子ども達がかわいそう」「自分勝手だ」……そのような言葉は、責任感を持って仕事をしてきた保育士さんであればあるほどつらく、後ろめたい気持ちになることでしょう。
しかし、このような場合に園側の恨み言に耳を傾けてはいけません。
退職は、誰よりもあなた自身がより幸せに生きるための選択。
ルールに従った退職手続きや、業務の引継ぎに努める必要はありますが、過度な申し訳なさを感じたり、退職そのものをあきらめたりする必要はありません。
自分の選択に自信を持ち、退職の意思は変わらないことをキッパリと告げましょう。
「損害賠償を請求する!」という脅しも……

まれなケースではありますが、「退職するのであれば、損害を賠償してもらう!」などと脅しをかけてくる可能性もあります。
たとえば、退職に伴って複数の同僚の引き抜きを行ったり、民法上のルールを守らずに「今日で辞めます」と音信不通になってしまったりするような場合には、責任を問われかねませんが、一般的にしかるべき手順に沿ってきちんと退職の手続きをした場合に、損害賠償が請求される可能性は低いでしょう。
過度に恐れず、あくまでも冷静に対応することが大切です。
退職届を受け取ってもらえない
園が退職を認めたくないがために、退職届を受け取ってもらえないケースも、ごくまれにあります。
そのような困った場合には、まず退職届を内容証明で送付しましょう。
これは、退職意思を口頭のみで伝えた場合に「言った/言わない」の争いになるのを防ぐため。
なお、退職届とわかると、受け取りを拒否される可能性もあるので、「退職届在中」などとは書かずに送りましょう。
どうしても辞められない……そんなときは?

「退職意思が固いことをしっかり伝えても、園がなかなか納得してくれず、辞めることができない。」「自分だけではもう対処しきれない……」
そのような時には、ひとりきりで抱え込まずに専門機関に相談しましょう。
総合労働相談コーナー・行政機関・法テラスなどに相談を
退職について相談できる窓口として、まず総合労働相談センターが挙げられます。
総合労働相談センターでは、引き止めの問題だけでなく、嫌がらせやパワハラなど、あらゆる労働問題について相談を受けつけています。
全国に380もの拠点がありますので、電話はもちろん来所しての相談も可能です。
◆最寄りの総合労働相談センターを確認する……【厚生労働省ホームページへ】
そのほか、労働基準監督署や各自治体が独自に設けている労働相談窓口に相談してもよいでしょう。
予約が必要なこともあるので、不明点があれば電話などであらかじめ確認しておくようにしてね!
また、弁護士など法律の専門家に相談するのもひとつの方法です。法テラスでは、無料で法律に関する相談窓口等の情報提供を受けたり、弁護士・司法書士に面談で相談したりすることができます。
電話・面談・メールなどさまざまな相談方法があるため、困ったときには問い合わせてみるとよいでしょう。
交渉が進まないならば「退職代行」を利用する方法も
また、民間のサービスではありますが、退職代行を利用するのもひとつの方法です。
退職代行とは、その名のとおり自分に代わって、弁護士や代行業者が退職に必要な事務手続きを行ってくれるサービスのこと。
自分ではなかなか引き止めに対処できない場合や、直接上司と会って交渉したくない場合などには役立つでしょう。
業者によっても料金やサービス内容が異なるうえ、きちんと弁護士資格を持ったスタッフが対応しないと法律違反にもなりかねないから、業者はしっかり比較する必要があるわね。
引き止めの可能性を想定した転職活動を

ここまで、退職における「引き止め」の予防策と対処法についてお伝えしてきましたが、いかがでしょうか。
引き止めといってもさまざまなケースがあることそして引き止めの対処には、ある程度時間や労力が必要となることがお分かりいただけたと思います。
だからこそ、とくに転職の場合には引き止められることを想定したうえで、転職活動および退職手続きを行っていくことが必要でしょう。
「せっかく内定をもらったのに、退職手続きが難航して、内定を取り消されてしまった……」ということがないよう、余裕をもって予定を組むよう心がけたいものですね。

編集者より

職場から引き止められる存在であること、それは保育士さんがこれまで一生懸命頑張ってきた証でもあり、一概に「悪いもの」とは言いきれません。
しかし、引き止めによってなかなか職場を辞めることができず、困っている保育士さんが数多く存在するのも事実。
今回紹介した引き止め予防策や対処法を活かし、ひとりでも多くの保育士さんがスムーズに退職し、気持ちよく新たな道に進めることを願っています。
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