生活するうえで欠かせないのが、家賃をはじめとする「居住費」。
「毎月大きな負担になっている……」という保育士さんも多いことでしょう。
そんなとき助かるのが、「家賃補助」「住宅手当」といった、月々の居住費負担を軽くしてくれる支援制度です。
とくに地方から上京して働く場合や、年齢・経験から見込める給与額が低い場合などには、手当の有無が職場選びの“決め手”となることもあります。
今回はそんな居住費の補助・手当について、活用のポイントや注意点をお伝えしていきましょう!
家賃補助・住宅手当とは

一般的に、「家賃補助」「住宅手当」とは、居住にかかる費用の全額もしくはその一部に対して補助(手当)を支給することで、労働者の生活をサポートする制度を示します。
事業者ごとに「家賃補助」「家賃手当」「住宅手当」「住居手当」など、名称は異なりますが、法的に明確な違いが設けられているわけではありません。(※この記事では以下「家賃補助」と記載します)
支援の内容もさまざまな家賃補助制度ですが、大きく分けると以下の2種類に分類できます。
- 「事業者」が補助金を支給する場合
- 「国や地方自治体」が補助金を支給する場合
「事業者」が補助金を支給する場合
保育施設の運営母体である事業者が、労働者である保育士さんに対して独自に補助金を支給する制度です。
毎月一定の家賃補助を支給するケースや、事業者が社宅として借り上げている宿舎(アパートなど)に、通常よりも割安な賃料で入居できるケースなどがあります。

「国や地方自治体」が補助金を支給する場合
国や地方自治体が事業者に対して補助金を支給し、その補助金で事業者が保育士さんをサポートすることで、実質的な家賃補助としているケースです。
多くの自治体が実施する支援制度として「保育士宿舎借り上げ支援事業」が挙げられます。

保育士さんにとって「月々の居住費負担が軽減できる」という点では同じだけれど、納得したうえで制度を活用するためにも、それぞれの違いについてきちんと理解しておくことが大切よ!
家賃補助の種類

国や自治体、あるいは事業者が資金を負担することで、保育士さんの居住費がサポートされる「家賃補助」制度。
しかし、その補助の方法にもさまざまな種類があります。
今回は以下の主な4つをご紹介します。
【1】社宅・寮に対する補助
事業者が所有・契約している物件に、保育士さんが割安な賃料で入居できるという家賃補助形態です。
事業者が宿舎として借り上げているため、物件探しや契約手続きなどの手間を軽減できるのが大きなメリットと言えるでしょう。
なかには初期費用や更新費用などを抑えられるケースもあります。
入居できる物件はあらかじめ決まっていることもありますが、事業者が提携している不動産会社などを通じて、一定の条件のなかで物件を選択できることもあるため、詳細については各事業所に確認してみるとよいでしょう。
保育士さん自身に賃料の負担がある場合には、基本的に給与からの天引きとなります。
- 入居できる物件が用意されているため、手続きや転居の準備が楽
- 契約者は事業者となるため、敷金・礼金などの初期費用や更新費用が抑えられることがある
- 勤務先から比較的アクセスのよい物件に入居できる
- 社宅や寮に入居する際には一定の条件を満たしている必要がある
- 自己負担額によっては、実質的な補助金額が給与とみなされ課税されることがある
- 共有スペースの掃除などを労働者が交代で担当することがある
【2】一般的な賃貸物件に対する補助
労働者である保育士さん自身が賃貸契約を行い、事業者が毎月定められた額の補助金(手当)を支給するという家賃補助形態です。
支給額や規定等は事業者ごとに異なりますが、社宅・寮とは異なり自分の住みたい物件をある程度自由に選べるのが特徴です。
家賃補助としてどの保育士さんにも一律の金額が毎月支給されるケースや、「家賃の〇割(〇万円まで)」といったように、家賃の一定割合を事業者が負担するケースがあります。
- 好きな物件を探して入居できる
- 社宅や寮と比べ、プライバシーが守られた生活を送りやすい
- 居住地域等に一定の制限が設けられている場合がある
- 初期費用や更新費用などは基本的には自費での負担となる
- 毎月の補助金(手当)は給与とみなされ、課税の対象となる
【3】「保育士宿舎借り上げ支援事業」による補助
先の社宅・寮の整備による家賃補助と似ていますが、支援の実施主体を自治体とし、自治体の補助のもとで事業者が宿舎を借り上げ、保育士さんに無償あるいは割安な家賃負担で居住できるよう提供する家賃補助形態です。
事業者が独自に設けている家賃補助と比べ、国や自治体が補助をしているため、手厚い支援を受けることができます。
ただし「保育士宿舎借り上げ支援事業」を実施する自治体が限られること、また事業を推進している自治体においても、事業者によっては実施していないケースがあることには注意が必要でしょう。
また、保育士宿舎借り上げ支援事業の実施主体は各自治体であり、自治体によって補助の対象となる条件や、補助金額に差があります。
労働者である保育士さんの本人負担額の有無や、その金額も事業者によってまちまちだから注意してね!
- 比較的手厚い家賃補助を受けることができる
- あらかじめ入居できる物件が用意されている場合には、契約手続きや転居の準備が楽
- 勤務先と同市区町村内など、職場から比較的近隣の物件に入居できる
- 補助の対象となるには一定の条件がある
- 入居期間中に補助の対象から外れた場合は退去しなくてはならない可能性がある
- 自己負担額によっては、実質的な補助金額が給与とみなされ課税されることがある
- 共有スペースの掃除などを労働者が交代で担当することがある
- 施設長など一定の立場の場合には、制度を利用できない可能性がある
- あくまでも待機児童問題や保育士不足問題の解消を目的とした事業のため、永続的に利用できるとは限らず、制度が廃止・縮小となる可能性がある(※)
「初期費用が安く済ませられる」ことをメリットとして紹介している情報サイトもあるけれど、実際には保育士さんの負担となることがほとんどなので、注意してね!
「保育士宿舎借り上げ支援事業」は、保育人材の確保、定着及び離職防止をはかり、安定的な保育所の運営を可能にすることを目的とし、2015年度より実施されている事業です。
東京都においては、2016年の緊急対策により支援対象が採用から5年間だったものが、6年目以降にも拡大されるようになっています。
ただし、国の補助制度を活用した支援事業のため、国の補助制度がなくなった場合には、それに伴い自治体の補助が廃止・縮小される可能性があります。
(例)
■世田谷区
2021年3月31日をもって現在の事業補助金交付要綱が無効となり、2021年度以降の実施については未定。
■千葉市
国補助制度の動向や千葉市の待機児童・財政状況等の事情により、事業・補助金廃止が決定した場合は、採用後10年目以内であっても、補助終了年度を もって補助金支払いが終了する可能性がある。
■さいたま市
2021年3月31日をもって現在の事業補助金交付要綱が無効となり、2021年度以降の実施については未定。
【4】各自治体・事業者による独自の補助
自治体や事業所によっては、月々の賃料に対する補助や宿舎の提供だけでなく、独自の補助制度を設けていることもあります。
また、保育士宿舎借り上げ支援事業の補助内容に対して、補助金額や対象を拡大しているケースもあります。
- 厚生労働省の定める「保育士宿舎借り上げ支援事業要綱」よりも充実した補助を提供する
- 補助の対象を拡大し、より多くの労働者が補助を利用できるようにしている
- 地方からの就業する保育士のために転居手当や引っ越し準備金を支給する
- 就職準備金の貸付を行い、一定期間継続して勤務した場合に返還免除とする
補助の実施主体が自治体となっている場合には、事業者によっては導入していないケースもありますので、利用できるか否かは各事業者に確認するようにしましょう。
自治体や事業者によって補助の内容は異なる

ここまでさまざまな家賃補助をご紹介しましたが、どのような制度にも当てはまるのが、自治体や事業者によって、補助の金額や内容などが大きく異なるということです。
補助の対象となる職員に制限を設けているケースも多く、その条件も自治体・事業者ごとに差があります。
- 「保育士」「看護師」「保健師」といった資格を有すること
- 常勤勤務であること
- 勤務地から一定の範囲内に居住すること
- 同事業者で採用されてから一定年数以下であること
- 世帯主またはそれに準ずること
- 同居者がほかの家賃補助・住宅手当等の支給を受けていないこと
- 経営者や役員、施設長でないこと など
これは、地域によって居住にかかる家賃の相場に差があることや、待機児童数や保育士の不足状況が異なることなどが影響しています。
また、事業者の方針や経営状況によっても、導入できる補助の内容は変わってくるでしょう。
就業先を検討するうえでは、その条件や内容をしっかり確認しておく必要があるよ!
また、保育園の転職に精通したキャリアアドバイザーに相談してみるのも、ひとつの方法よ。
家賃補助を利用する際のQ&A
月々の居住費を抑えられる家賃補助ですが、制度を利用するうえでは注意すべき点もあります。
ここからは家賃補助を受けるにあたって、多くの保育士さんが疑問に思うポイントについて、くわしく解説していきましょう。
同棲中や既婚者だと利用できないの?
一人暮らしではなく、パートナーやほかの家族とともに生活をする場合や、既婚者である場合などには、家賃補助が利用できないケースがあります。
- パートナーやほかの家族が世帯主または実質的な世帯主となっている場合
- 同居者の扶養に入っている場合
- 同居者の職場からすでに家賃補助を受けている場合 など
制限については自治体や事業者ごとに異なり、また社宅や寮、保育士宿舎借り上げ支援事業を利用する場合には、そもそも単身者しか入居ができないという制限があるケースもあります。
「同棲する同居者がいるから/既婚者だから」といって、一概に家賃補助を受けられないわけではありませんが、補助の対象外になるケースもあるということは、頭に入れておくとよいでしょう。
パートナーやほかの家族の分まで支給を受けることはできないから注意しよう!
ずっと家賃補助を受けることができるの?
継続的に家賃補助を受けることができるかどうかは、自治体や事業者の規定によります。
とくに社宅・寮、保育士宿舎借り上げ支援事業を利用した補助の場合には、採用されてから一定の期間しか入居対象とならない場合もあるので、注意が必要です。
【例:厚生労働省の要綱にもとづく対象者制限(2020年3月時点)】
採用された日から起算して10年以内の常勤の保育士
※待機児童数が少ない/保育士有効求人倍率が低い自治体などでは、採用から5年以内とされる場合がある
また、家賃補助の実施は自治体や事業者の義務ではないため、状況によっては制度そのものが廃止・縮小される可能性があることは、覚えておきましょう。
ただし、保育士さんの就業継続や離職防止のために、今後利用制限が緩和されることも考えられるわ。
一概にずっと利用できるものではない、ということは念頭におきつつ、今後の動向に注目していきたいわね。
パート・アルバイトだと利用できない?
雇用形態や働き方によっては、家賃補助の対象とならないことがあります。
- 1日の勤務が6時間以内の短時間勤務である
- 月あたりの勤務日数が20日以内である
- 派遣保育士等事業者の直雇用ではない
- 事業者の社会保険の被保険者となっていない など
諸条件は自治体や事業者ごとに異なり、産休・育休中、病気やケガによる休職中などについては特例的に補助が継続されるケースもあります。
詳細な条件は、各事業者に確認するようにしましょう。
利用に際してほかにデメリットはある?
家計にとって助かる家賃補助ですが、下記の点はデメリットと捉えられるかもしれません。
選べる物件が限られる可能性がある
社宅・寮や借り上げ宿舎の場合には、限られた物件のなかから選択しなくてははらないことも多く、「お部屋にはこだわりたい」という保育士さんにとっては、デメリットに感じられるかもしれません。
手当として支給される家賃補助形態であれば、ある程度自分の好きな物件を選ぶことができますが、それでも地域が限定されるなどの一定の条件が設けられている場合があるので、注意が必要です。
給与に算入され、所得税課税の対象となるケースがある
家賃補助が給与に上乗せした手当として支給される場合、手当分は給与所得に算入され、課税の対象となります。
また、社宅・寮や借り上げ宿舎の提供の場合にも、自己負担額がない場合や、わずかな賃料で居住できる場合などには、「賃借料相当額(※)」が給与とみなされ課税されるため、支払う所得税が高くなることに注意しましょう。
保育士に対し宿舎を貸与する場合、事業者が保育士から1ヶ月当たり一定額の自己負担額(賃借料相当額の50%)以上を受け取っていれば課税されません。
ただし、無償で貸与する場合はその賃借料相当額が給与とみなされ課税されます。
また、自己負担額が賃借料相当額の50%より低い場合は、自己負担額と賃借料相当額の差額が給与として課税されます。
【無償の場合】5万円が給与として課税
【1万円の家賃を支払う場合】4万円が給与として課税
【3万円の家賃を支払う場合】課税なし
……ということになるわね!
(※)賃借料相当額は、建物・敷地の固定資産税の課税基準額や、総床面積などから算出されます。詳しくは国税庁のホームページや税務署等で確認しましょう。
【参考】国税庁『No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき』
社宅や借り上げ宿舎の場合は契約者が事業者となる
賃貸契約を結ぶ場合、通常は契約者が個人、つまり保育士さん自身となりますが、社宅や寮、借り上げ社宅の場合には、契約者が事業者となります。
個人で契約をしている物件とは異なり、基本的には退職した場合や、補助対象から外れた場合などには退去をしなくてはならないため、宿舎使用規約などを確認しておきましょう。
プライベートな生活環境が確保できない場合も……
居住する物件が決まっている場合には、同じ建物に同僚や先輩職員が居住することになります。
そのため「プライベートな時間であっても、同僚などの目が気になってしまう……」ということもあるかもしれません。
上手に家賃補助を活用しよう!
昨今、待機児童問題とともに深刻な課題として挙げられている「保育士不足」。
その背景には職務内容に対して、給与をはじめとする処遇が不十分であるという要因があるとも言われています。
今回ご紹介した「家賃補助」「住宅手当」といった支援制度は、給与のうち自由に使えるお金が増えるという点では、実質的な「給与アップ」と捉えることもできるでしょう。
自由に使うことができるお金が増えれば、余暇を使って外出したり、好きなものを購入したりしてストレスを発散することもできます。
利用を希望する場合には、自身が補助の対象となるのかどうかを確認し、うまく活用できるとよいですね。
編集者より

かつては多くの企業で取り入れられていた家賃補助・住宅手当ですが、近年では時代の流れにあわせて廃止・縮小されるケースも増えています。
そんななか、自治体や事業者による家賃補助制度があることは、保育士として長く働くうえで、強力なサポートとなることでしょう。
就職先を検討するうえで「処遇」はもっとも大きな検討ポイント。
給与のみでなく、今回ご紹介した家賃補助などの各種手当も視野に入れたうえで、就職・転職活動をすすめられてはいかがでしょうか。
参考資料
- 厚生労働省『保育士宿舎借り上げ支援事業の実施について』(2020/2/20)
- 内閣府『保育士宿舎借り上げ支援事業』(2020/3/20)
- 国税庁『No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき』(2020/3/20)
保育士の転職活動をもっとシンプルに。「しんぷる保育」

保育士・幼稚園教諭の求人を専門に扱う「しんぷる保育」では、あなたの思い描く働き方にぴったりの求人を無料でご提案します。
求人紹介以外にも、書類作成のサポート、面接対策、条件交渉、ご入職手続きの代行など、複雑な転職活動をよりシンプルにするサポート体制が充実!納得・満足できる転職活動のために、ぜひお気軽にご相談ください。
【ポイント①】あなたに合った求人を
雇用形態・職種・給与・園の規模など、あなたの希望する働き方にあわせた求人を、経験豊富なキャリアアドバイザーが無料でご紹介します。一般的な求人サイトには掲載されない非公開求人も豊富。
【ポイント②】ご登録から入職まで徹底サポート!
応募書類の作成サポートや面接対策、選考日程の調整や条件交渉など、働きながらの転職活動では負担になりがちなポイントを徹底サポート。あなたの転職活動をもっとシンプルに!
【ポイント③】現場の情報満載
給与や残業、園の雰囲気などの気になる情報もこまかくお伝えします。納得できる転職活動のためにお役立てください。