「円満退職」とは、労働者と雇用主の双方が退職に納得し、互いの合意のもとでスムーズに職を離れること。
新生活を気持ちよくスタートするためにも、「トラブルなく退職をしたい」と願うのは、転職を目指す保育士さんならば自然なことでしょう。
しかし、実際には
「引き止められて、なかなか辞めることができない」
「退職意志を伝えたあと、人間関係が悪くなってしまった……」
など、退職にトラブルを経験するケースも少なくありません。
今回は、転職における「円満退職」の重要性をお伝えするとともに、保育士さんが円満に退職するために必要な5つのポイントを紹介していきます。
「円満退職」のメリットとは?
「同僚や先輩にあたたかく送り出される退職」
「職場ともめて、ケンカ別れのように職場を去る退職」
……もしも自由に選ぶことができるなら、あなたはどちらがよいでしょうか?
多くの方は前者のような、穏やかな退職を望むことでしょう。
しかし仕事を辞めることを決意する場合、低賃金や長時間労働、人間関係など、職場への不満が原因となっているケースも多いもの。
なかには、
「辞められるならば、円満退職でなくてもかまわない」
「どうせなら不満をすべて吐き出して退職してやりたい!」
と考えている保育士さんもいるかもしれませんね。
では、そもそもなぜ多くの転職サイトにおいて、「円満退職」が推奨されているのでしょうか。
「円満退職」を目指すことで得られる5つのメリット
円満に職場を退職することは、職場にかける迷惑や負担を最小限にするという意味でも重要ですが、退職する保育士さんにとっても大きなメリットがあります。
なかでも、退職する保育士さんにとって最大のメリットとなるのは、前向きに次のステップに進むことができることでしょう。
退職に際して職場とトラブルになることは、退職に必要な手続きがうまく進まない、退職後に必要書類などの不備があった場合等に、連絡が取りづらくなるなどのリスクを高めることがあり、問題の対応には多大な労力が必要となります。
また、職場の人間関係が悪化することで、退職するまでの間に精神的ストレスを抱えてしまうことも考えられます。
もちろん、「円満退職でなければ辞めることができない」というわけではありませんが、スムーズに退職できるよう工夫することで、これまでの経験をよいかたちで締めくくり、前向きに新たなスタートを切ることができるでしょう。
今回は円満退職のポイントを紹介しながら、注意点もしっかり伝えていくから、状況にあわせてうまく活用してね!
保育士の円満退職に必要な5つのポイントとは?
では、「円満退職」を実現するためには、具体的にどのような点に注意すればよいのでしょうか。
実際に退職するまでの間にすべきことを、5つのポイントにまとめてみましょう。
ここからはポイントごとに、具体的にやるべきことや注意点をチェックしていきます。
【ポイント1】退職意志を伝える時期を見極める
退職をするには、職場に「辞めたい」という意志を伝えなくてはなりません。
円満退職を望むならば、まず「いつ退職を切り出すか」を検討する必要があるでしょう。
退職意思を伝えるのは遅くとも1ヶ月前までに!
ではまず、法律上退職を伝えるのはいつまでに行うことが定められているのか、チェックしてみましょう。
民法では、労働者が退職を申し出る期間について以下のように定められています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。(民法627条1項)
民法上、契約期間の定められていない雇用形態の場合には退職日の2週間前までに、退職の意思を伝えればよいこととなっています。
しかし、法律で定められているからといって、2週間という期間はかなり短いもの。
ギリギリまで退職意思を伝えないことは、職場との大きなトラブルにつながりかねません。
できるだけ円満に退職するためには、少なくとも就業規定に定められた期日までに退職意思を伝えること、またとくに規定が設けられていない場合でも、少なくとも退職の1ヶ月前までには、退職する旨を伝えておくことを心がけましょう。
年度末での退職を希望する場合には、前年の秋ごろから継続意志のヒアリングを行う園が多いため、退職の意思が固まっているようであれば、ヒアリングの時点で退職を検討していることを伝えておくとよいでしょう。
また、担当する業務内容によっては「退職意思を伝えるのが1ヶ月前では引継ぎが間に合わない……」というケースもあります。
状況にもよりますが、できれば2~3ヶ月前に転職の意志を伝えておくと、よりスムーズに引継ぎ・退職ができるはずです。
行事の直前など忙しい時期は避けるのがベター
やむを得ない事情がある場合以外は、運動会・生活発表会など大きな行事前に退職を切り出すのは避けたほうがよいでしょう。
行事前は園長などの役職者を含め、保育士さん全員が忙しい時期。
なかなか話をする時間を設けてもらえなかったり、「こんな忙しい時期に退職の話?」とネガティブに捉えられてしまったりする可能性もあります。
できるだけ大きな行事が終わり、落ち着いたタイミングを見計らって退職を切り出すようにすると、話がスムーズに進む可能性が高くなります。
なかには退職を先延ばしにしないほうがよいケースも……
余裕を持って退職意思を伝えても、場合によっては園から「〇月まで退職を待ってほしい」など、退職時期の変更を求められることもあります。
しかし、たとえば次のような場合には、退職の先延ばしには大きなリスクが伴います。
このようなときには、円満に退職をすることよりも、自分・家族の安全や将来を優先させる判断をすることも大切です。
場合によっては自治体の法律相談窓口や総合労働相談コーナーなどに相談する方法もあるから、「辞められない」と諦めることはないよ。
【ポイント2】伝えるべき退職理由を検討する
退職意思を伝える時期を決めたら、どのように退職を切り出すかを検討する必要があります。
本来であれば事情を包み隠さず話し、職場に納得してもらったうえで退職したいものですが、円満退職のためには、ときに「本音」と「建前」をうまく使い分けることも重要です。
「波風を立てずに退職したい」という場合には、個人的で当たり障りのない事情を「建前上」の退職理由として提示するのも、ひとつの方法でしょう。
【例】
本当の退職理由は「人間関係にストレスを感じたこと」であっても、職場には「家庭の事情で」「体力的に限界を感じて」など、当たり障りのない退職理由を提示する。
環境や他者に対する不満は引き止めのきっかけにも……
退職理由を包み隠さずに職場に伝える場合であっても、たとえば「お給料が低く、生活が厳しいので」「〇〇先生と1年間いっしょにはたらいてきたけれど、相性が悪くて……」など、労働環境や人間関係に関する不満を伝える際には、引きとめにあうリスクを考えておかなくてはなりません。
【引き止めの例】
もしも処遇改善や配属の調整で、退職を思いとどまる可能性があるならば、正直に退職理由を伝えるのもひとつの方法です。
ただし、自己都合による退職を希望し、引きとめにあってもその園にとどまるつもりがない場合には、個人的な理由を提示したほうが、引きとめのリスクが軽減できるでしょう。
その場合、当たり障りのない退職理由を話すことで、自己都合での退職とされてしまうことがあり、あとからトラブルになる可能性もあるから、要注意よ!
◆退職理由を「自己都合」にしてはいけないケースもある
退職の多くは労働者の「自己都合」によるものですが、倒産や事業所の廃止、解雇など、労働者の意志に反して退職せざるを得なくなった場合には、「会社都合」による退職として取り扱われます。
退職後に失業給付金を受け取る予定の場合、自己都合退職と会社都合退職とでは、支給開始日(給付制限)や支給日数、金額などに大きな差が出るため、注意が必要です。
退職意志は誰に伝える?
退職の意志は、直属の上席(主任保育士など)に、口頭で直接伝えるのが基本です。
職場内を混乱させてしまう可能性もあるため、退職が公表されるまでは、同僚などに話さずにおくのがベターでしょう。
【ポイント3】引継ぎ&挨拶はしっかりと
正式に退職が認められたら、退職日に向けて必要な業務の引継ぎを行い、お世話になった人たちにはきちんと挨拶をしておきましょう。
いつから引継ぎをはじめる?
「業務の引継ぎを早めにスタートしておきたい」という気持ちもあるかもしれません。
しかし、業務引継ぎは基本的に「退職が職場に公表されてから」スタートするようにします。
引継ぎに必要な期間のめやすと引継ぎ事項
では、具体的に引継ぎにはどれくらいの期間が必要なのでしょうか。
もちろん担当している業務の内容や量によっても異なりますが、一般的には最低でも1ヶ月程度は必要になることが多いでしょう。
引継ぎ事項には、次のようなものが挙げられます。
引継ぎ事項 | おもな内容 |
---|---|
子どものこと | 性格・発達の状況・アレルギー等の健康情報・得意/不得意・好きなもの・兄弟の有無など |
家庭のこと | 保護者の性格・職業・夫婦の状況・家庭環境について知っていること・相談や苦情の履歴など |
クラスのこと | 1日の過ごし方・習慣的に行っていること・クラスのルール・子ども達が好んで取り組んでいることやブームなど |
環境のこと | 物品や資料の管理場所・保育環境/設備に関する注意点など |
未処理タスク 今後の予定 |
退職後に保護者に伝達する予定だったこと・子どものお休み予定についてすでに把握していること・保護者の出産や入院/転居等の予定など |
その他 | 役職業務や自分の担当業務(壁面・行事など)があれば別途引継ぐ |
引継ぎは項目ごとに情報をまとめ、パソコンなどで引継ぎ表を作っておくとよいでしょう。
後任者が決まっていれば、資料を渡すだけでなく口頭でも引継ぎを行い、不明点があれば補足するようにします。
必要に応じて「別紙参照(児童票に詳細あり)」など、どの資料を見たらよいか記載しておくと便利ね。
上司・同僚に対する挨拶
園長や主任保育士、先輩、同僚など、在職中にお世話になった職場の人には、退職前にきちんと挨拶をしておきましょう。
退職日当日に全員に挨拶するのが難しいこともあります。事前に勤務シフトなどを確認し、できれば全員に口頭でお詫びやお礼を伝えましょう。
職場専用のメールアドレスを使用して連絡をとる場合には、返信をもらう可能性も考えて、早めに挨拶メールを送っておくといいわね。
なお、ささやかなお礼としてお菓子などを置いて退職するケースも多くあります。
必須ではありませんが、置き菓子のほかにも、これまでの退職者が慣例的にしていたことがあれば、できるだけ従うのが無難でしょう。
子ども・保護者に対する挨拶
保育を担当した子ども達やその保護者に対しても、退職前にきちんと挨拶をし、安心して後任の先生に引き継げるようにします。
子どもに対しては、「いなくなる」など、不安にさせてしまうような伝え方を避けるように心がけ、「これからも応援している」という気持ちを伝えましょう。
保護者に対しては、これまで保育に理解・協力をいただいたお礼を伝えるとともに、いつ退職になるのか、後任者はどうなるのかなどの情報をきちんと伝えましょう。
退職の理由については、場合によっては保護者を不安にさせてしまう可能性もあります。「家庭の事情で」など、当たり障りのない理由を考えておくとよいでしょう。
【ポイント4】退職後に不備がないように
退職に際しては、退職届(退職願)の提出や退職に関する誓約書の取り交わし、備品の返却など多くの事務手続きがあります。
また、離職票や源泉徴収票など、退職する保育士さんが受け取るべき書類もありますので、退職する保育士さんと人事・総務担当者双方で確認をし、退職後に不足がないようにしておきましょう。
あとからトラブルにならないよう、不明点はしっかりチェックしておいてね!
では、職場に提出・返却するもの/受け取るべきものをそれぞれチェックしてみましょう。
職場に提出・返却すべき書類・物品
保育士さんが退職時に職場に提出するのは、おもに以下の書類です。
また、退職時に返却しなくてはならない物品等には、次のようなものがあります。
職場から受け取るべき書類
つづいて、退職時に職場から受け取る必要のある書類を確認しましょう。
なお、離職票は退職から10日前後で発行されるため、郵送で受け取るケースが多いでしょう。
上記の4つの書類は、失業手当の受給手続きをする/次の職場の入職手続きをする、いずれのケースでも大切な書類です。
もれなく受け取れるよう、退職前にしっかり手続きを依頼しておきましょう。
その場合には、期間にゆとりをもって発行を依頼しておいてね!
【ポイント5】完璧な円満退職に固執しないことも大切

ここまで、円満に職場を退職するためのポイントをお伝えしてきましたが、なかには、最大限の配慮をしたにもかかわらず、一部の職員から冷たい対応をされてしまう……といったケースもあるでしょう。
真面目でやさしい保育士さんであればあるほど、その状況を心苦しく思ってしまいがちですが、そもそも職場にまったく迷惑をかけずに退職することは不可能でしょう。
冒頭でお伝えしたとおり、「円満退職」は誰よりもまず自分自身が前向きに次のステップに向かうためのもの。
ときには「こころよく思わない人がいても仕方ない」と割り切ってしまうことも大切です。
もちろん、職員全員にあたたかく見送ってもらえるような退職は理想ですが、現実にはなかなか難しいもの。
自分ができるだけの努力をしたのなら、「できるだけのことはした!」と気持ちを切り替え、前向きに新たなスタートを切りましょう。
編集者より
「終わりよければすべてよし」といわれるように、ものごとの締めくくりというものはとても大切です。
退職する職場に来ることは二度とないかもしれませんし、ほかの職員に会うことも、もうないかもしれません。しかし長い人生のなかで、その園での経験を思い返すことはきっとあるでしょう。
ふとふり返ったときに、退職時に職場と揉めた苦い思い出が浮かんでしまうのは、つらいですし、残念なことですよね。
「いろいろあったけれど、よい経験ができた」と、前向きに思い返すことができるよう、ぜひ今回ご紹介した内容を活かして、あなたにとっての「よい退職」を実現してくださいね!
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