近年乳幼児期に同学年の子供だけでなく、異なる年齢層の子供たちと同じ空間で交流し、成長を促す「異年齢保育」が流行りつつあります。そこで本記事では我が子を異年齢保育に通わせようと考えている親御さんに向けて、そもそも異年齢保育の狙いとはなにか。また、メリットとデメリットを分かりやすく解説していきます。
異年齢教育とは
異年齢保育とは、異なる年齢の子供たちが同じ保育グループで一緒に過ごす保育の形態で、『縦割り保育』や『混合保育』とも呼ばれています。通常の保育では、同じ年齢の子供たちが同じクラスやグループに所属し、同じような成長段階の仲間と一緒に時間を過ごします。しかし、異年齢保育は幼児や幼稚園児が、異なる年齢層の子供たちと同じ空間で交流し、主体性や協調性を育ませることが主な目的です。
異年齢保育の狙い
昭和の時代には異なる年齢の兄弟姉妹、近所の子供たちがたくさん集まって一緒に遊んでいました。年齢の異なる子供たちが一緒になって遊ぶと、年上の子が年下の子の面倒を見たり、教えたり、年下の子が年上の子にあこがれたり、まねしたりしていました。そして、遊びを通して人との関わり合いを学び、生きていくために必要な力を身につけていました。しかし、令和の時代においてそのような光景はほとんど見られなくなってしまいました。
アメリカやヨーロッパの幼稚園や保育園では、異なる年齢層の子供たちが同じグループで過ごす「縦割り」が普及しています。しかし、日本では保育園も幼稚園も同じ年齢の子供たちが同じグループで過ごす「横割り」が一般的です。最近では少子化が進む中で一人っ子も増えて、異なる年齢の子供との関わりが減っているため縦割りが注目され、縦割りにする園が増えてきています。しかし、残念ながら横割りよりも少ないのが現状です。横割りが一般的な日本教育において、慣れ親しんだ横割りシステムから、縦割りシステムへ変えていくことは保育士や子供を通わせる保護者にとってもなかなか難しいことです。
たしかに、異なる年齢の子どもが同じ空間にいることから、安全面や各園児の成長差に配慮が必要なため、保育士の負担が増えてしまうなどの問題も存在します。それでは、なぜそのようなリスクもありながらアメリカやヨーロッパでは異年齢保育が普及しているのでしょうか。まずはアメリカやヨーロッパにおいての異年齢保育の狙いを見ていきます。
異年齢保育を積極的に採用している国の教育法は、主にモンテッソーリ教育法、イエナプラン教育法、ピラミッドメソッド幼児教育法の3つになります。
モンテッソーリ教育法
イタリアの医師であり教育家であるマリア・モンテッソーリ博士が「子どもには自分で自分を教育する、育てる力がある」という「自己教育力」を根底に考えられた教育です。あらかじめ大人によって決められたプログラムに取り組むだけの受け身の学習ではなく、日常生活から子どもの「やりたい」、「チャレンジしてみたい」という気持ちを尊重して学ばせます。
「危ないからダメ」や「まだ難しいからダメ」とやりたいことを止められることがないのも特徴です。子供たちは、自分の意思を尊重してもらう経験を積み重ねることで自己肯定感が高まります。このように子供たちの興味や関心事を異なる年齢の子供と「結びつける」ことで広げ、自発的に学べる環境を整えて子供たちの成長発達を促します
モンテッソーリ教育とは?特徴やメリット、5つの分野を解説!|ベネッセ教育情報サイト (benesse.jp)
イエナプラン教育法
子供一人ひとりの個性の尊重や対話を重視して、自律と共生を学ぶ教育です。主にイエナプラン教育法では、自律のために必要な「主体性」と、共生に必要な「協調性」を養うことを目的としています。過去に子どもの幸福度ランキングで、先進31ヵ国中1位を獲得したオランダではイエナプラン教育法が普及しています。
幼いころから異なる年齢の子供たちと触れ合いながら、さまざまな個性を持った子供と積極的に関わらせ協調性を学び、グループの中での役割を自分自身で理解し行動する主体性を育ませます。
イエナプラン教育とは?特徴から問題点までをまるっと解説 (studystudio.jp)
ピラミッドメソッド幼児教育法
子どもが自分で選択することを重視したオランダ発祥の教育です。子どもが自ら考え決断し、行動できる環境下で自己表現力を身に着けることを主な目的としています。
ピラミッドメソッドでは、「サークルタイム」といわれる保育士や異なる年齢の子供が一つの円になって話し合う場が設けられます。これによって子供たちは自分の意見を発言して自己表現力をつけるだけでなく、さまざまな価値観を持った友達の意見を聞いたりしながら協調性も学ぶことができます。
ピラミッドメソッドとは?特徴やメリット・デメリットを解説!|LaLaほいく(ららほいく) (hoikushi-worker.com)
上記で紹介した3つの教育法に共通しているのが「主体性」と「協調性」です。システムやアプローチは多少異なりますが、教育の根底となるものは同じで、この3つを幼いころから養うことができるのがまさに異年齢保育なのです。
異年齢保育のメリットとデメリット
いざ我が子を体の大きさだけでなく知的発達レベルの異なる0歳の乳幼児から5歳の幼児までが同じ空間で一緒に過ごす環境に通わせるには勇気が必要です。そこで、先ほど紹介した3つの教育法に共通する異年齢保育のメリットとデメリットを紹介していきます。
異年齢保育のメリット
異年齢保育におけるメリットは主に6つ考えられます。
・協調性と社会性が身につく
・人間関係の構築の仕方を学ぶ
・思いやりの気持ちが育まれる
・さまざまなことに興味、関心をもつ
・友達の輪が広がる
・自己肯定感の向上
それではひとつずつ詳しくみていきましょう。
協調性と社会性が身につく
将来社会に出ると20代の新入社員から40、50代の上司など幅広い年齢層の人たちと円滑にコミュニケーションをとる必要があります。しかし、現代社会において協調性や社会性の欠如は大きな問題になりつつあるのは事実です。
2022年に20代の仕事を辞めたいと思ったことがある435名に「辞めたいと思った理由」を調査したところ、 1位は「人間関係がツライ(168人)」というデータがあります。「上司とうまくいっていないから」(23歳 男性 銀行員)、「職場の人間関係がよくない」(27歳 女性 福祉系事務職)や「人間関係がうまくいかなかったとき、人間関係をリセットしたかった」(29歳 女性 飲食業)など人間関係の問題を抱える若者が増えてきています。協調性や社会性は短時間で簡単に身につくものではありません。そこで、乳幼児の時期から年上の子に年下の子が言葉を教えたり、年下の子が年上の子から遊びのルールを学んだりできる環境に身を置くことによって自然に協調性や社会性を身に付けることができます。
人間関係の構築の仕方を学ぶ
協調性と社会性に似ていますが、異年齢保育では人間関係の構築も学ぶのに最適な環境です。異なる年齢の子供たちが生活する環境では、子供たちひとり一人が多様な役割モデルを提供することになります。
年上の子供たちが率先してリーダーとなり、良い行動のモデルとしてふるまい年下の子供たちはそれを学び、模倣することでお互いに成長することができます。さらに、普段から行動を共にすることによって友情や協力関係だけでなく尊敬や憧れなどの感情も育まれ、将来社会に出て必要な人間関係の構築の仕方を学ぶことができます。
思いやりの気持ちが育まれる
異なる年齢層の子どもたちが一緒に過ごすことで、包容力や共感力を育むことができます。同年代の子供に対する思いやりはもちろんですが、体格や知的発達レベルが異なる子供たちと日常的に接する機会が自然に増えます。
そこで、年上の子供たちは年下の子供たちに対して思いやりを示し、年下の子供たちは年上の子供たちとの交流を通じて自己主張やコミュニケーションスキルを磨くことができます。
さまざまなことに興味、関心をもつ
同年代の子供で集まっていると同じようなおもちゃや遊びに興味や関心を持ちます。性別や子供の性格にもよりますが、例えば公園に行ったとき1、2歳の子供は砂場で遊び、3、4歳の子供は滑り台やブランコなどの遊具に関心を持ちます。
しかし、年齢の異なる子どもが同じ空間で過ごすことで、年下の子が年上の子を見て「自分もやってみる」と積極的に新しい遊びに興味を持ち、遊び方やルールを覚えます。このように異なる年齢の子供たちからさまざまなことに興味や関心を持つようになります。
友達の輪が広がる
異年齢保育では年齢による制約がなく、異なる年齢の子供たちとも交流する機会がたくさんあります。それによって、子供たちはより自由に友情を築くことができます。
また、年齢の違いからくる異なる経験や視点を持つ子供たちと交流してお互いに異なる価値観やバックグラウンドを理解し、新しい考え方と視野を得ることができます。そして、子供たちが異なる年齢の子供と交流することで、コミュニケーション能力や問題解決能力などが向上し、友達の輪を広げることができるのです。
自己肯定感の向上
同じ年齢の子供たちと過ごしているとどうしても他人と自分自身を比較する機会が増えます。例えば、特に自分自身と同じ年齢の子供たちと過ごす環境下において、周りの人と比べて勉強や運動が「できる」「できない」という感情が生まれやすくなってしまいます。
しかし、異なる年齢の子供たちと過ごすことによって、「できる」「できない」のレッテルを自分自身に貼る必要がなくなり自己肯定感の向上が期待できます。
異年齢保育のデメリット
一方で異年齢保育にはデメリットも存在します。主なデメリットは4つ存在します。
・力関係で解決してしまう
・発達段階に適した遊びが出来ない
・個別のニーズにあわない
・関係性の複雑さ
それでは一つずつ詳しくみていきましょう。
力関係で解決してしまう
異なる年齢の子供が集まるため、同年齢の子供が集まる環境以上に体格や力の差があります。喧嘩が発生すると身体的な接触や攻撃が避けられない場面がどうしても存在してしまいます。体格や力の差があることから、喧嘩の際に怪我をする可能性もあり、子どもたちの間に亀裂が生じたり、友情が損なわれてしまいます。また、体格と力で勝る上級生の子が下級生の子を力で支配してしまうことも考えられます。
発達段階に適した遊びが出来ない
異なる年齢の子供たちとふれあい、様々なことに興味や関心を持つことはよいことですが、年齢に適したおもちゃや遊びが必要な場面もあります。例えば、3歳時にとって空間認識や手先の細かい運動、問題解決能力を発達させることができるブロックやパズル遊びはとても重要な遊びのひとつです。しかし、ブロックやパズル遊びを卒業した5歳時の子供と接する機会が増え、その結果空間認識などの発達が遅れてしまうリスクが存在しています。
個別のニーズにあわない
家庭によって保育園や幼稚園に我が子を通わせる理由は異なります。「小学校入学前に教育面をしっかり準備させたい」「友達を作らせてあげたい」などひとり一人異なるニーズを持っています。同学年の子供が集まっていても発達段階や家庭によって異なるニーズに全て答えることは難しいです。さらに異なる年齢の子供たちの発達段階を全て把握して、それぞれに適した遊びや環境を提供することが難しい場合があります。
関係性の複雑さ
年齢の異なる子供たちが一緒に過ごすことで、コミュニケーションの壁が生じることがあります。言葉や表現のレベル、意思疎通の方法などが大きく違う場合もあるため、子供たちがお互い適切にコミュニケーションを取ることが難しくなる場合があります。
また、年上の子供たちに対して、年下の子供たちが嫉妬したり、競い合ったりすることもあり、これによって関係性の複雑さや不和が生じる可能性もあるので注意が必要です。
まとめ
本記事では、異年齢保育の狙いやメリットとデメリットを解説しました。異年齢保育には、興味や関心も異なるさまざまな年齢で構成された子供たちと同じ環境下で過ごすことによって、主体性や協調性などを育むことができるというメリットがあります。
しかし、体格や発達レベルが異なる子供たちが同じ環境下で一緒に過ごすことで安全性のリスクやひとり一人の発達ニーズに合わないなどのデメリットも存在するのも事実です。今後我が子を異年齢保育へ通わせるか迷っている親御さんは、是非今回紹介したメリットとデメリットを参考にして最適な保育園選びに役立ててください。
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