保育士のキャリアアップ研修とは、若手や中堅保育士にキャリアアップの機会を設け、処遇改善を図るための取り組みです。副主任保育士や職務分野別リーダーなどの新たな役職を設けることで、加算手当として給料を上乗せできる仕組みとなっています。
ただし、キャリアアップ研修を受けられる人数や配当金にはルールが設定されているため、よく理解したうえで研修を受けましょう。
本記事では、保育士のキャリアアップの仕組みや手当、受講方法などを詳しく解説します。研修を受ける際の注意点も紹介しているので、これから研修を受ける予定の方は参考にしてください。
保育士のキャリアアップ研修とは【令和6年最新】
保育士のキャリアアップ研修は、国が実施している処遇改善の取り組みの1つで、保育士の収入アップとキャリアアップしやすい環境づくりを目的としています。
キャリアアップ研修は以下のような経緯を辿っており、令和4年までは研修の修了要件は適用されていませんでした。
年度 | 経緯 |
平成29年 | キャリアアップ研修のガイドライン制定 |
令和5年 | 副主任保育士・中核リーダーは経過措置を設けながら研修修了要件を導入 |
令和6年 | 職務分野別リーダーは経過措置を設けながら研修修了要件を導入 |
令和8年 | 研修修了要件の適用を完全実施予定 |
令和5年から経過措置付きで研修修了要件が適用され、令和8年の完全適用を目指して現在進められている状況です。
保育士キャリアアップ研修の仕組み
これまで保育園の役職は、園長と主任保育士しかありませんでした。
キャリアアップ研修により、新たに「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」の3つの役職が誕生したのです。
以下は、キャリアアップ研修の仕組みと各役職の要件がわかる図です。
「副主任保育士」と「専門リーダー」として発令されれば、1人あたり月額4万円の処遇改善手当が保育園に支給されます。「職務分野別リーダー」の場合は、1人あたり月額5,000円です。
ただし、各園でそれぞれの役職につける人数に上限があるため、要件を満たすからといってすべての対象者が役職につけるとは限りません。研修受講前に、園の役職ポストの空き状況を確認してみるとよいでしょう。
研修内容
キャリアアップ研修における研修分野は全部で8種類あります。1分野15時間以上、受講する決まりがあります。
分野の種類と研修内容は以下のとおりです。
分野 | 内容 |
①乳児保育 | ・乳児保育の意義 ・乳児保育の環境 ・乳児への適切な関わり ・乳児の発達に応じた保育内容 ・乳児保育の指導計画、記録及び評価 |
②幼児教育 | ・幼児教育の意義 ・幼児教育の環境 ・幼児の発達に応じた保育内容 ・幼児教育の指導計画、記録及び評価 ・小学校との接続 |
③障がい児保育 | ・障害の理解 ・障害児保育の環境 ・障害児の発達の援助 ・家庭及び関係機関との連携 ・障害児保育の指導計画、記録及び評価 |
④食育・アレルギー | ・栄養に関する基礎知識 ・食育計画の作成と活用 ・アレルギー疾患の理解 ・保育所における食事の提供ガイドライン ・保育所におけるアレルギー対応ガイドライン |
⑤保健衛生・安全対策 | ・保健計画の作成と活用 ・事故防止及び健康安全管理 ・保育所における感染症対策ガイドライン ・保育の場において血液を介して感染する 病気を防止するためのガイドライン ・教育・保育施設等における事故防止及び 事故発生時の対応のためのガイドライン |
⑥保護者支援・子育て支援 | ・保護者支援・子育て支援の意義 ・保護者に対する相談援助 ・地域における子育て支援 ・虐待予防 ・関係機関との連携、地域資源の活用 |
⑦マネジメント研修 | ・マネジメントの理解 ・リーダーシップ ・組織目標の設定 ・人材育成 ・働きやすい環境づくり |
⑧保育実践研修 | ・保育における環境構成 ・子どもとの関わり方 ・身体を使った遊び ・言葉・音楽を使った遊び ・物を使った遊び |
①から⑥は専門研修と呼ばれます。「職務分野別リーダー」は担当する職務分野(①~⑥)の研修を修了する必要があります。
「専門リーダー」は、4つ以上の専門研修を修了しなければなりません。「副主任保育士」は、3つ以上の専門研修の修了に加え、⑦のマネージメント研修の受講が必須となっています。
⑧の保育実践研修は、ブランクや保育経験が浅い保育士のために作られた研修です。実践的な保育スキルを習得できます。
わたしは「乳児保育」「保護者支援・子育て支援」の研修を受講しました。乳児クラスを担当させていただく機会が多く、保護者対応のスキルを高めたいと考えていたため、研修を受けられてよかったです!
受験方法
キャリアアップ研修は、自治体や都道府県または都道府県の指定した研修実施機関が開催します。
各機関でキャリアアップ研修の募集をしているので、枠が空いていたら申し込みをおこないましょう。申し込みは、自分でする場合と園側がおこなう場合があるので、勤め先に確認してみてください。
キャリアアップ研修の受講方法は、大きく分けて以下の2種類があります。
- 現地会場で研修を受ける
- eラーニングを活用して研修を受ける
現地会場での研修は、指定された日時・場所に集合して研修を受けます。ほかの参加者も全員集合し、対面でディスカッションしたり、保育の実践をおこなったりします。
eラーニングとは、パソコンやタブレットを使って学習する形態です。ネット環境さえ整っていれば、会場に行かなくとも自宅や職場で研修が受けられます。eラーニングでの研修は、講座を動画で見て学習したり、Zoomで参加者とディスカッションしたりします。
わたしは2分野の研修を現地会場で受けました。実際に顔を合わせながら講師や参加者の方とお話ができたので、意見交換ができて学びを深めることができました。
保育士のキャリアアップ研修を受ける3つのメリット
保育士のキャリアアップ研修を受けるとどんなメリットがあるの?
保育士がキャリアアップ研修を受けるメリットは、主に以下の3つです。
・収入アップにつながる
・保育の質が高まる
・転職してもキャリアアップを目指せる
順番に見ていきましょう。
1.収入アップにつながる
先述のとおり、研修の要件を満たすと処遇改善の手当が保育園に支給されます。支給額は以下のとおりです。
- 副主任保育士・専門リーダー: 一人当たり月額4万円
- 職務分野別リーダー:一人当たり月額5,000円
配当は保育園側で自由に設定できるため、役職に就いたからといって支給額を満額受け取れるとは限りません。しかし、一定の配分は保証されているため収入アップを実現できます。
配当金のルールについては後ほど詳しく解説しています。どのくらい手当がもらえるのか気になる方は最後まで読み進めてみてください。
2.保育の質が高まる
キャリアアップ研修では、15時間以上にわたって各専門分野の研修を受講します。1つの分野を集中的に学習するため、専門の知識や実技のスキルを深く習得できます。
研修では以下のようなプログラムが用意されており、理論と実践を組み合わせた総合的な学びが可能です。
- 講師の話を聞いて知識を深める
- 実際に体を動かして実技を学ぶ
- 参加者とディスカッションして多様な視点を得る
役職が発令され現場で実践を重ねれば、さらに知識とスキルが身についていくでしょう。
3.転職してもキャリアアップを目指せる
キャリアアップ研修の修了効力は、研修をおこなった都道府県以外の全国で有効です。そのため、転職しても前園で受けた研修修了の効力を活かして収入アップやキャリアアップを目指せます。
ただし、先述のとおり各役職につける人数の上限は園によって異なるため、転職したからといって必ずしも役職につけるとは限りません。役職に就ける可能性があるかどうかは事前に保育園に確認しましょう。
転職後、実際に役職手当がついた経験があります!キャリアアップ研修を受けてよかったと心から思いました!
保育士がキャリアアップ研修を受けるときの2つの注意点
保育士が キャリアアップ研修を受けるときの注意点が2つあります。
・内容を理解していないと研修を修了できない可能性がある
・必ずしも役職手当が満額もらえるとは限らない
後悔やリスクを避けるためにも、注意点をしっかりおさえておきましょう。
1.内容を理解していないと研修を修了できない可能性がある
キャリアアップ研修では、理解度を確認するためにレポートの提出を求める機関もあります。レポートの内容が薄いと「理解が不十分」と捉えられて、修了証がもらえない可能性もゼロではありません。
また、eラーニングでのキャリアアップ研修では、講座の合間に小テストを実施し、合格しなければ次の講座に進めない場合もあります。
確実に修了証を得るためにも、最後まで集中して研修に臨みましょう。
2.必ずしも役職手当が満額もらえるとは限らない
役職に就いたからといって、加算手当を必ずしも満額受け取れるとは限りません。配当は各園の事業主が自由に設定できるためです。
たとえば、副主任保育士の配当は月額4万円の処遇改善をおこなう職員を1人以上確保していれば問題ありません。そのため、2人目の副主任保育士は月額5,000円から4万円未満の配当になる可能性があります。
反対に、要件に明記されている月額以上の加算手当を受け取れる場合もあります。職務分野別リーダーにおいては、月額5,000円から副主任保育士等の最低額がルールとなっているためです。
誰にいくら配当するかは保育園側が決めることなので、この点はよく覚えておきましょう。
参考:こども家庭庁|3.職員への配分方法
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保育士のキャリアアップ研修に関するよくある質問
最後に保育士のキャリアアップ研修に関するよくある質問と回答をまとめます。
レポートの提出が遅れたら修了証はもらえないの?
実施主体によって対応が異なります。たとえば、事情を確認したうえで後からの提出を許可しているところもあります。
レポートの提出が遅れてしまった場合は、実施主体に問い合わせて確認してみましょう。
研修を受けるのに年齢や経験年数の制限はありますか?
各役職の受講要件には、以下のようにおおむねの経験年数の目安が設定されています。
- 副主任保育士・専門リーダー:おおむね7年以上
- 職務分野別リーダー:おおむね3年以上
ただし、要件に設定されている経験年数はあくまでも目安です。経験年数に届いていなくても、保育園側が能力や実績を評価していれば、研修を受講し役職に就けます。
保育士のキャリアアップ研修への理解を深めて収入アップや昇格を目指そう
保育士のキャリアアップ研修は、処遇改善や役職への昇格が期待できる取り組みです。
研修修了の効力は現職の保育園のみならず全国どこでも有効です。そのため、キャリアアップ研修を修了しておくと、転職先でも処遇改善やキャリアアップのチャンスが広がります。
要件を満たしている方は、研修の受講を前向きに検討していきましょう。
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